行動経済学×医療なぜ私たちの意思決定は不合理なのか? Show [第11回]コンサルテーションを利用する 医療者の決める力に対する支援平井 啓(大阪大学大学院人間科学研究科准教授) (前回よりつづく) バイアスに流されずに意思決定するには医療者
現在行っている治療が,残念ながら効果がなくなってきました。これからは痛みの緩和や生活の維持を目的とした緩和ケアを中心にしたほうがよいと考えていますが,いかがでしょうか。 この後も積極的治療を継続したが,患者は急変により亡くなった。 がん治療の現場でしばしば見られるこのような場面は,前回(第3274号)で扱った,患者側の現状維持バイアスとサンクコストバイアス,そして第9回(第3270号)で扱った医療者側の先延ばしの心理が組み合わさった典型的な場面です。 外的コミットメントを高めるコンサルテーション第3回(第3245号)で紹介したように,「やめる意思決定」の状況で必要なのは,患者の参照点を「現状維持」から「このままでは患者にとってマイナスの状況になる」という現状に即した参照点に移動させるコミュニケーションです。しかし,第9回で説明した「時間割引」により,目の前のつらいコミュニケーションを先延ばししたいという心理が医療者にあります。この状況での対応方法は,患者と医療者双方の行動経済学的特性をコントロールするために,内的・外的な「コミットメント」を高めることが基本でした。外的なコミットメントを高めるための構造化された方法の一つがコンサルテーションです。 コンサルテーションとは,困ったことや課題を抱えたコンサルティ(相談者)が,問題解決のためにその課題の専門家であるコンサルタントに相談することです1)。例えば新規事業への投資を考えている企業経営者をコンサルティとして,経営コンサルタントは市場規模や見通しという観点から,意思決定に助言します。 現在多くの病院で,さまざまな職種やチームがコンサルタントの機能を提供しています1)。その一つが「緩和ケアチーム」です。緩和ケアチームは,担当医や病棟スタッフからの依頼を受けて患者の総合的な評価を行い,包括的な支援を提供する多職種チームです。緩和ケアチームに求められる役割の中に,患者―医療者間コミュニケーションの促進,患者・家族の意思決定への援助,倫理的な問題を含む難しい治療・ケアに対する方針決定の支援があります。これらには,患者だけでなく医療従事者への支援が含まれます。またその活動には,プライマリ・ケアチームからの依頼に基づいて緩和ケアチームがプライマリ・ケアチームに接触し,協同してアセスメントを行い,治療計画を一緒に立て,的確に助言を行うことも含まれています1)。 主治医をはじめとするプライマリ・ケアチームをコンサルティとすると,緩和ケアチームはコンサルタントであり,プライマリ・ケアチームの意思決定を支援する存在です。プライマリ・ケアチームにしばしばあるのが,できる限り自分たちだけで仕事を完結したいという心理です。そのような場合は,よほど困った場面でしかコンサルタントに相談しません。冒頭の事例のような場合で,このままではまずいとプライマリ・ケアチームのメンバーが思ったとしても,緩和ケアチームに相談するほどではないと考えてしまいかねないと思います。 定期的なコンサルテーションを2010年に米国のTemelらが発表した「早期からの緩和ケアによって患者の生存期間が延長する可能性がある」ということを示す論文があります2, 3)。転移を伴う非小細胞性肺癌の患者を「標準的ケア+定期的な緩和ケアのコンサルテーション」群と「標準的ケアのみ(必要時には緩和ケアのコンサルテーションが受けられる)」群にランダムに分け,生存期間を比較したところ,「標準的ケア+定期的な緩和ケアのコンサルテーション」群のほうが,生存期間の中央値が有意に長かったと報告されました。この理由の中には,死亡前の無理な治療を行わなかったことで抑うつが予防され,患者のコーピング能力が高まったことや,看護師や緩和ケア医からの意思決定支援を受けられたことが挙げられていました3, 4)。 これは,緩和ケア医からの定期的なコンサルテーション,すなわちチームアプローチや意思決定支援が行われたことで,特に患者に負担を与える死亡前の化学療法を「やめる意思決定」を切り出すコミュニケーションを,患者と行えたからではないでしょうか。このことは定期的なコンサルテーションが重要である可能性を示しているといえます。 筆者は緩和ケアチームの心理コンサルタントと,大学の経営企画業務における経営コンサルタントの仕事を非常勤でしています。コンサルティに対しては,意思決定を支援するコンサルタントの立場ですが,一方で自分自身の研究や教育,さらにはキャリアに関する重要な意思決定が必要な場面では,必ず第三者(できれば複数の人)に相談するようにしています。 また,第8回(第3266号)で説明したように,医療者が患者にとって望ましい選択肢を伝える際には「ナッジ」を効かせることが重要です。患者の現在の状態において,それが一般的に行われる方法であると明確に説明し,望ましい選択肢であると医療者が考えていることを明確に伝え,それがデフォルトであると患者に十分に理解できるようにするということです。 このとき重要なのは,どの治療方針をデフォルトとして設定するかです。その検討の際は,普段から一緒に仕事をしているプライマリ・ケアチームだけだと,意思決定の基盤となる前提が共有されてしまっているため,客観的な妥当性を検証できない場合があります。妥当性の高いデフォルト設定をするためには,コンサルタントにもあらかじめ検討に入ってもらうことが必須です。定期的にコンサルタントに相談するという習慣を持っておくと,難しい場面でもぶれない方針を示すことを可能にすると思います。 コンサルタントにかかわってもらうようにすることは,外的なコミットメントを高め,患者や家族に対してナッジを効かせたコミュニケーションを可能にするだけでなく,患者への意思決定支援に対するプライマリ・ケアチームの心理的な負担を軽減します。そのため,長期的に見ると医療者自身のストレスマネジメントにつながるものであると考えられます。また,複数のコンサルタントを持つことは,意思決定支援に対する負担軽減だけでなく,多様な視点を持つことで医療者自身のクリエイティビティにも貢献すると思います。普段から自分の専門性と異なるコンサルタントに相談するようにしましょう。 今回のポイント●コンサルテーションは,外的なコミットメントを高めるために有効な,構造化された方法である。 (つづく) 参考文献 コンサルテーションとは、問題を解決するために、その分野の専門家に助言をもらうこと 傾向と対策 コンサルテーションにおける具体的な業務内容を理解しておこう! よくわかる解説 コンサルテーションコンサルテーションとは、専門職間で行われる相談のことをいい、専門分野に特化した専門看護師や認定看護師が看護職に対して、より具体的で実践的な看護ケアについて情報提供を行うことである。 リエゾン精神看護の活動の一環にコンサルテーションへの対応があり、精神看護の知識や技術を応用して、精神科以外の一般病棟においても患者や家族、医療従事者などの精神的ケアやコンサルテーション(相談)、支援を行う。 アプリなら単語から問題を引けるからめちゃ便利! いまさら聞けない!看護用語 看護コンサルテーションの相談事例とプロセス(依頼の仕方)(2016/03/04)公開日: 2016/03/04 : 最終更新日:2017/12/09 看護師 看護用語 東京都 全科共通 悩み解決のために欠かせないコンサルテーション。現在では多くの職業で実施され、看護領域でも広く実施されています。 コンサルテーションとは何か、看護師が受けることができる領域、コンサルテーションの効果や依頼の手順などについて、当ページでご説明しますので、コンサルテーションに興味のある方はぜひ最後までしっかりお読みください。 目次
1、コンサルテーションとはコンサルテーションとは、「内外の資源を活用して問題を解決したり、変化を起こすことができるよう、当事者やグループを手助けしていくプロセス」のことで、「相談」と言い換えてもいいでしょう。 コンサルタント(コンサルテーションを行う者)は、コンサルタンティ(他の専門知識を有する者、たとえばスタッフナース)から、ある専門分野における相談を受けるわけですが、コンサルタントは専門看護師や認定看護師である場合が多いのが実情です。 というのも、専門看護師や認定看護師は1つの分野に特化しており、より具体的かつ実践的な看護ケアの方法を情報提供できるからです。 専門看護師や認定看護師が従事していない病院・病棟においては、従事する者だけでより効果的な看護ケアの方法を研究しなくてはなりません。 それに伴い、研究評価の妥当性を図るのが困難であり、さらに実践に際しても導入が困難であるため、コンサルテーション(相談)を行うことにより、それまで不明瞭だった問題を解決でき、知識の取得や実践への導入をスムーズに行うことができるのです。 2、コンサルテーションの相談事例コンサルテーションでは、看護ケアの方法、臨床の現場で体験する出来事(倫理的問題を含む)によるストレスや葛藤、対人関係、自己のキャリアアップなど、さまざまな問題についての支援が行われています。 どのような専門分野に関するコンサルテーションが行われているのか、以下にてその一例をご紹介します。
※認定看護師、専門領域の一例 このほか、「不妊症看護」「新生児集中ケア」「透析看護」「手術看護」「乳がん看護」「摂食・嚥下障害看護」「小児救急看護」「認知症看護」「脳卒中リハビリテーション看護」「がん放射線療法看護」「慢性呼吸器疾患看護」「慢性心不全看護」など、専門分野の知識を有するコンサルタントがコンサルテーションを行っています。 また、看護師へのコンサルテーションだけでなく、患者や家族にも行われることも多々あります。 3、コンサルテーションの効果「1、コンサルテーションとは」で述べたように、コンサルティはコンサルテーションを受けることにより、それまで疑問に抱えていた問題を解決することができ、迅速に自身の看護に生かすことができます。 これまで、コンサルテーションに関する効果の検証・研究はあまり行われていなかったものの、ここ10年で多くの検証・研究が行われ、コンサルテーションの効果が実証されています。以下に、実証されたコンサルテーションの効果の一例をご紹介します。 ■不明瞭な問題を解決できる 病棟内で統一して実施されているケア方法すべてが正しいとは限らず、本当にそれは患者のためになるのかなど、業務の遂行にあたって円滑化が図れているのかなど、各ケアが適切であるか否かを常に感じながら業務を行っている方は多いことでしょう。 このような状態ではケアに対して不信感が募るばかりか、技術の向上も望めませんが、コンサルテーションを受けることで疑問に感じている問題を迅速に解決することができ、またケアに対する自信や技術の向上を図ることができるのです。 ■知識習得に伴う自己洞察力・視野の拡大 知識量が増えれば増えるほど物事を見る目が養われ、また患者への理解が深まり、状況に応じた対処を迅速に行うことができます。また、豊富な知識をもとにケアの応用法を編み出すことができるなど、独自の視点から研究に着手する能力も養われます。 ■ストレスの緩和 コミュニケーションに関する不安や状況に応じた対処など、業務の中で多大なストレスを感じることが多い看護師ですが、コンサルテーションを通して同じ境遇に立つ者との語り合いにより共感を得ることができます。また、不安や心配事に関する対処法を教授してもらうことで、今後の業務での精神的負担が軽減され、ストレスの緩和ならびにストレスの溜まらない業務運びを行うことができます。 ⇒看護師のストレス発散・解消のためのコーピングスキル活用術 ■周囲への関心・キャリアアップ思考の拡大 コンサルテーションを一度経験すると、疑問に対する迅速な解決、自己洞察力・視野の拡大、ストレスの緩和などコンサルテーションの利点や、相談・教育・指導の有効性に気づき、周囲(他の看護師が行うケア)への関心が高まります。これにより、自身の看護ケアの振り返りや技術向上への姿勢が前向きになり、キャリアアップ思考が拡大されていきます。 このように、コンサルテーションは何も疑問の解決だけでなく、自身のストレスが緩和できたり、業務に対する姿勢が前向きになったりと、さまざまな効果があり、これらはここ10年の検証・研究で実証されたものです。 特に精神看護領域の効果は凄まじく、専門看護師であれば「精神看護」、認定看護師であれば「緩和ケア」や「認知症看護」と、現在では多くの専門看護師・認定看護師がコンサルテーションを実施しています。 4、コンサルテーションの道のりコンサルテーションは1人でもグループ(病棟)単位でも受けることができます。自身で応募することもできますが、どこで誰が何の領域のコンサルテーションを行っているのか分からないと思いますので、看護師長または院長を通して応募すると良いでしょう。 ①自部署の所属長へ報告する まずは、自部署の所属長(看護師長や院長)にどのような領域のどのような問題について相談したいのか、その旨を報告しましょう。院外のコンサルテーションに関しては、内外ネットワークを通して情報が共有されていますので、まずは報告することから始めましょう。 ②依頼書を記入・提出する 報告すると、所属長よりコンサルテーションの依頼書が手渡されます。依頼書には、氏名・電話番号・Email・所属部署・相談内容などの記載項目がありますので、すべて埋めて所属長に提出してください。 ③所属長が依頼書を送付する 依頼書の提出後、所属長が記載項目を確認し、依頼したい専門看護師・認定看護師(主に事業所)へ依頼書を送付します。 ④依頼者が直接連絡をとる 依頼した専門看護師・認定看護師より返事が返ってきます。それが依頼書を通した返信(再送付)なのか、記載した電話番号・Email・FAX経由なのか分かりませんが、基本的には電話番号・Email・FAXを通して連絡をとります。また、多くは依頼者と専門看護師・認定看護師の間で直接連絡を取り合い、相談内容の確認や相談日の決定など行います。 ⑤相談を受ける 人によって、また事業所によってコンサルテーションの実施内容は異なります。一対一の面談の場合や、グループでの面談の場合などさまざまです。グループの場合は特に、あなた以外にも相談したい看護師がいますので、相談内容を事前にしっかりとまとめておきましょう。 基本的にはこのような流れでコンサルテーションを受けることができます。所属病院内に専門看護師や認定看護師がいる場合には時間を割いてもらって直接相談に乗ってもらうのが効率的ですが、いない場合にはぜひコンサルテーション行っている事業所を活用し、疑問を解決へと導いてください。 まとめコンサルテーションは、疑問を解決できるだけでなく、自身の看護の振り返りや今後の看護への意欲向上など、受けるメリットは多大にあります。 また、自身が専門看護師や認定看護師の資格を取得して、コンサルタント(コンサルテーションを行う者)として活動する日が来るやもしれません。 それゆえ、専門看護師や認定看護師の資格取得を考えている方は、コンサルティ(コンサルテーションを受ける者)の気持ちを理解するという意味でも、一度受けておくと良いでしょう。
山岸愛梨 看護師 東京都在住、正看護師。自身が幼少期にアトピー体質だったこともあり、看護学生の頃から皮膚科への就職を熱願。看護学校を経て、看護師国家資格取得後に都内の皮膚科クリニックへ就職。ネット上に間違った情報が散見することに疑問を感じ、現在は同クリニックで働きながら、正しい情報を広めるべく、ライターとしても活動している。 この記事が気に入ったら ナースのヒント の最新記事を毎日お届けします こちらの記事もおすすめコンサルテーションの役割は?コンサルテーションとは、異なる専門性をもつ複数の者が、援助対象である問題状況について 検討し、よりよい援助のあり方について話し合うプロセスをいいます。 自らの専門性に基づいて 他の専門家を援助するものを「コンサルタント」、そして援助を受けるものを「コンサルティ」 と呼んでいます。
コンサルテーションの課題は?コンサルテーションはコンサルタントとコンサル ティが協働して進める動的なプロセスである。 今 後はコンサルテーションのプロセス全体に視野を 拡大し、プロセスを推進するための方略やコンサ ルティを取り巻く組織をアセスメントする視点、 コンサルティや組織の成長を見極める指標などに ついて検討することが課題である。
コンサルタント看護の意味は?コンサルタントとは,専門看護師として認定され, 依頼を受けてコンサルテーションを実施している高 度実践看護師である。 コンサルティとは,専門看護師に相談を依頼する 看護師などの医療専門職である。
コンサルテーションの種類は?3種類のコンサルテーション. ①情報購入型 クライアントの特定の課題についての情報提供を行う。 ... . ②医師-患者型 組織の診断及び問題発見とその解決策の提示を行う。 ... . ③プロセスコンサルテーション クライアント自らが問題を理解し、診断を下し、解決策を考え、実行する支援を行うこと。. |