目次 1 ARP(Address Resolution Protocol)とはIPアドレスとMACアドレスを対応付けるためのプロトコルです。そして、IPアドレスとMACアドレスを対応付けることをアドレス解決と呼び、ARPというプロトコルの名前の由来です。 ARPはイーサネットでIPパケットを転送するときに必要不可欠な大事なプロトコルです。 TCP/IPの通信では、IPアドレスで宛先を指定しているのですが、なぜ、MACアドレスも必要なのでしょうか? それは、IPだけでは最終的な宛先までデータを送り届けられないからです。IPにはビットを物理的な信号に変換して伝えていくような機能がありません。そこで、IPパケットをイーサネットやWi-Fiといったネットワークインタフェース層のプロトコルでカプセル化して、物理的な信号に変換して送り出さなければいけません。ネットワークインタフェース層プロトコルとして、イーサネットを利用しているときにIPパケットをイーサネットインタフェースから送り出すには、イーサネットヘッダを付加しなければいけません。 IPヘッダにはIPアドレスが必要です。そして、イーサネットヘッダにはMACアドレスが必要です。送信元IPアドレスと送信元MACアドレスはパケットを送信する機器のものなのでわかります。そして、TCP/IPの通信では必ずIPアドレスを指定するので、宛先IPアドレスは指定されたものを使えばよいです。あとは宛先MACアドレスが必要です。宛先IPアドレスに対応するMACアドレスを求めるためにARPがあります。 図 ARPによるアドレス解決の概要イーサネットインタフェースから送り出すときには、「0」「1」のデジタルデータを物理的な信号へ変換しています。 関連記事「IPアドレスとMACアドレスの違い」、「なぜIPアドレスもMACアドレスも必要になるか」について以下の記事で詳しく解説しています。 「0」「1」のデジタルデータを物理的な信号に変換して転送するためによく利用するイーサネットおよび無線LAN(Wi-Fi)についての詳細は以下のリンクからご覧ください。 ARPのアドレス解決の対象は同じネットワーク内のIPアドレスです。イーサネットインタフェースで接続されているPCなどの機器がIPパケットを送信するために宛先IPアドレスを指定したときに、自動的にARPの処理が行われます。ユーザはARPの動作について特に意識する必要はありませんが、ARPによってアドレス解決を行っているということはネットワークの仕組みを知る上でとても重要です。 ARPの動作の流れは、次のようになります。 ARPリクエストをブロードキャストARPリクエストでIPアドレスに対応するMACアドレスを問い合わせる ARPリプライを返す問い合わされたIPアドレスを持つホストがARPリプライでMACアドレスを教える ARPキャッシュを更新 アドレス解決したIPアドレスとMACアドレスの対応をARPキャッシュに保存する なお、ARPリクエストおよびARPリプライは、IPヘッダは付加せずイーサネットヘッダで直接カプセル化されます。 図 ARPのカプセル化関連記事ARPの詳しいメッセージフォーマットは以下の記事をご覧ください。 1.ARPリクエストで問い合わせIPアドレスを指定してIPパケットをイーサネットインタフェースから送り出すときに、まずARPリクエストを送信します。ARPリクエストの中身は「このIPアドレスのMACアドレスを教えてください」というものです。 ARPリクエストは同じネットワーク上のすべてのホストが受信するようにブロードキャストで送ります。ARPのアドレス解決は同じネットワークの中だけなのは、ブロードキャストを利用するからです。ブロードキャストは違うネットワークには転送されません。 2.ARPリプライでMACアドレスを教える問い合わせ対象のIPアドレスのホストがARPリプライを返します。ARPリプライの内容は問い合わせされたMACアドレスです。ARPリプライでもとのホストは目的のIPアドレスに対するMACアドレスを認識できるようになります。 なお、ARPリクエストはブロードキャストなので、同じネットワーク上のすべてのホストが受信しますが、問い合わせ対象のIPアドレス以外のホストはARPリクエストを受信しても破棄します。 問い合わせ対象ではないホストはARPリクエストをいったん受信してから、自身に関係ないと判断して破棄します。そのため、ARPリクエストに関係ないホストには若干の余計な負荷がかかります。 3.ARPキャシュの更新IPパケットを送信するたびにARPのアドレス解決を行うのは効率よくありません。それに、IPアドレスとMACアドレスの対応はそうそう頻繁に変わるものではありません。そこで、いったん解決したIPアドレスをMACアドレスの対応を一定時間ARPキャッシュに保存します。なお、ARPキャッシュは問い合わせしたホストと問い合わせされたホストの両方で更新します。 ARPキャッシュにIPアドレスとMACアドレスの対応が存在していれば、ARPリクエストとリプライで名前解決する手順をスキップできます。 ARPキャッシュ内の情報は時間が経つと削除されます。ARPキャッシュはARPテーブルとも呼びます。 ARPのアドレス解決の例以下の図は、ARPのアドレス解決の例です。PC1から同じネットワーク上のPC3(IPアドレス 192.168.1.3)へデータを送信するときに、PC3のMACアドレスを解決する様子を表しています。 図 ARPの動作PC3のMACアドレスを解決できたら、イーサネットヘッダの宛先MACアドレスを指定して、イーサネットインタフェースをからPC3宛てのデータを送り出すことができます。 図 アドレス解決後のデータの送信ARPのアドレス解決は同じネットワーク上のIPアドレスに対してのみです。では、異なるネットワークへデータを転送するときには、どのようにMACアドレスを求めればよいのでしょうか? 異なるネットワークのIPアドレス宛てにデータを送るときには、まず、デフォルトゲートウェイに転送します。デフォルトゲートウェイとは、同じネットワーク上のルータのIPアドレスです。他のネットワークへの入口です。ルータによって複数のネットワークが相互接続されています。つまり、異なるネットワークは同じネットワーク上のルータの先にあります。異なるネットワークへのデータを送るときには、問い合わせ対象のIPアドレスとしてデフォルトゲートウェイのIPアドレスでARPリクエストを送信します。デフォルトゲートウェイのルータがARPリプライを返して、送信元のホストはデフォルトゲートウェイのMACアドレスがわかるようになります。 図 異なるネットワークにデータを送るときのARPデフォルトゲートウェイのIPアドレスに対するMACアドレスを解決すると、イーサネットヘッダでカプセル化して、データを送信します。イーサネットヘッダの宛先MACアドレスは、デフォルトゲートウェイのものです。ですが、宛先IPアドレスは最終的にデータを送り届けたいホストのものになります。 そして、デフォルトゲートウェイがデータを受信して、宛先IPアドレスに基づいてルーティングします。 図 異なるネットワークへデータを送信関連記事デフォルトゲートウェイの詳細について、以下の記事をご覧ください。 Windows OSでは、コマンドプロンプトからARPキャッシュを管理できます。ARPキャッシュの内容を表示したり、スタティックにIPアドレスとMACアドレスの対応を登録したり、ARPキャッシュの情報を削除する方法を解説します。 ARPキャッシュの表示コマンドプロンプトからarp -aコマンドでARPキャッシュの内容を表示します。ネットワークインタフェースが複数存在する場合は、ネットワークインタフェースごとにARPキャッシュが表示されます。 C:\Users\gene>arp -a インターフェイス: 192.168.1.169 --- 0x3 インターネット アドレス 物理アドレス 種類 192.168.1.1 28-bd-89-d3-42-1c 動的 192.168.1.20 f4-f5-e8-4d-f8-92 動的 192.168.1.21 d8-6c-63-5a-ae-55 動的 192.168.1.30 f0-72-ea-15-1d-d0 動的 192.168.1.50 6c-62-6d-ec-8b-e2 動的 192.168.1.255 ff-ff-ff-ff-ff-ff 静的 224.0.0.2 01-00-5e-00-00-02 静的 224.0.0.22 01-00-5e-00-00-16 静的 224.0.0.251 01-00-5e-00-00-fb 静的 224.0.0.252 01-00-5e-00-00-fc 静的 239.255.255.250 01-00-5e-7f-ff-fa 静的 255.255.255.255 ff-ff-ff-ff-ff-ff 静的 ARPキャッシュのスタティック登録arp -sコマンドでARPキャッシュにスタティックにIPアドレスとMACアドレスの情報を登録できます。arp -sコマンドのフォーマットは以下のようになります。arp -sコマンドは、管理者権限で実行します。 ARPキャッシュのスタティック登録 C:\>arp -s <ip-address> <mac-address> <ip-address> : IPアドレス 以下は、IPアドレス「192.168.1.200」のMACアドレス「00-00-00-01-02-03」を登録する例です。 C:\WINDOWS\system32>arp -s 192.168.1.200 00-00-00-01-02-03 C:\WINDOWS\system32>arp -a インターフェイス: 192.168.1.169 --- 0x3 インターネット アドレス 物理アドレス 種類 192.168.1.1 28-bd-89-d3-42-1c 動的 192.168.1.20 f4-f5-e8-4d-f8-92 動的 192.168.1.21 d8-6c-63-5a-ae-55 動的 192.168.1.30 f0-72-ea-15-1d-d0 動的 192.168.1.50 6c-62-6d-ec-8b-e2 動的 192.168.1.200 00-00-00-01-02-03 静的 192.168.1.255 ff-ff-ff-ff-ff-ff 静的 224.0.0.2 01-00-5e-00-00-02 静的 224.0.0.22 01-00-5e-00-00-16 静的 224.0.0.251 01-00-5e-00-00-fb 静的 224.0.0.252 01-00-5e-00-00-fc 静的 239.255.255.250 01-00-5e-7f-ff-fa 静的 255.255.255.255 ff-ff-ff-ff-ff-ff 静的 ARPキャッシュの削除arp -dコマンドでARPキャッシュ内のIPアドレスとMACアドレスのエントリを削除できます。arp -dコマンドのフォーマットは、以下のようになります。arp -dコマンドは、管理者権限で実行します。 ARPキャッシュの削除 C:\>arp -d <ip-address> <ip-address> : 削除するARPキャッシュのIPアドレス。ワイルドカード「*」を指定するとすべて 以下は、IPアドレス「192.168.1.200」のARPキャッシュエントリを削除する例です。 C:\WINDOWS\system32>arp -a インターフェイス: 192.168.1.169 --- 0x3 インターネット アドレス 物理アドレス 種類 192.168.1.1 28-bd-89-d3-42-1c 動的 192.168.1.20 f4-f5-e8-4d-f8-92 動的 192.168.1.21 d8-6c-63-5a-ae-55 動的 192.168.1.30 f0-72-ea-15-1d-d0 動的 192.168.1.50 6c-62-6d-ec-8b-e2 動的 192.168.1.200 00-00-00-01-02-03 静的 192.168.1.255 ff-ff-ff-ff-ff-ff 静的 224.0.0.22 01-00-5e-00-00-16 静的 224.0.0.251 01-00-5e-00-00-fb 静的 224.0.0.252 01-00-5e-00-00-fc 静的 239.255.255.250 01-00-5e-7f-ff-fa 静的 255.255.255.255 ff-ff-ff-ff-ff-ff 静的 C:\WINDOWS\system32>arp -d 192.168.1.200 C:\WINDOWS\system32>arp -a インターフェイス: 192.168.1.169 --- 0x3 インターネット アドレス 物理アドレス 種類 192.168.1.1 28-bd-89-d3-42-1c 動的 192.168.1.20 f4-f5-e8-4d-f8-92 動的 192.168.1.21 d8-6c-63-5a-ae-55 動的 192.168.1.30 f0-72-ea-15-1d-d0 動的 192.168.1.50 6c-62-6d-ec-8b-e2 動的 192.168.1.255 ff-ff-ff-ff-ff-ff 静的 224.0.0.22 01-00-5e-00-00-16 静的 224.0.0.251 01-00-5e-00-00-fb 静的 224.0.0.252 01-00-5e-00-00-fc 静的 239.255.255.250 01-00-5e-7f-ff-fa 静的 255.255.255.255 ff-ff-ff-ff-ff-ff 静的 ARPフレームのMACアドレスは?ARPは、IPパケットをイーサネットでカプセル化するときの宛先MACアドレスを求めるために利用します。では、「ARPフレームの宛先MACアドレス」はどうなるんでしょう?ARPフレーム、すなわち、ARPリクエストとARPリプライのMACアドレスは、以下のように指定します。 ARPリクエスト ARPリプライ ARPリクエストの宛先MACアドレスを求めるなんてことは必要ありません。ARPリクエストの宛先MACアドレスはブロードキャストMACアドレス「FF-FF-FF-FF-FF-FF」を指定すればいいのです。そして、送信元MACアドレスはARPリクエストを送信するインタフェースのMACアドレスになります。 ARPリクエストの返事がARPリプライです。そのため、ARPリプライの宛先MACアドレスは、ARPリクエストの送信元MACアドレスを使えばいいだけです。また、送信元MACアドレスは、ARPリプライを送るインタフェースのMACアドレスです。 ARPキャッシュの仕組みは?通信を行う度に毎回問い合わせを行うのは非効率なため、一度ARPで調べたデータはオペレーティングシステム(OS)などが専用の一時的な記憶領域に保管しておき、次に必要になったらそこから調べる仕組みが用いられる。 この対応表をARPテーブルあるいはARPキャッシュという。
ARPテーブルの寿命は?ARPテーブルの寿命は? Rev.5以前のファームウェアでは14400秒(4時間)、Rev.6以降のファームウェアでは1200秒になっています。
プロキシARPの仕組みは?Proxy ARPの仕組み
ARPの応答を受信したパソコンは、通信先から応答があったと認識し、応答した装置のMACアドレスを宛先にしてフレームを送信します。 これにより、宛先MACアドレスがL3スイッチやルーターになるため、ルーティングされて通信が可能になります。
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