平成26年11月19日
2025 年には団塊の世代が 75 歳以上となり、介護が必要な高齢者の数が急増するとみられています。
介護保険制度は、原則として 3 年を 1 期とするサイクルで実施に関する計画が定められますが、今年 2014 年 6 月 18 日参院本会議で「医療介護総合確保推進法」が与党の賛成多数で可決、成立し、2015 年 4 月以降順次施行されます。
内容は支払い能力に応じての負担の引き上げと、介護サービスの利用を介護が必要性が高い人に集中させるというのが 2015年改正の基本的な枠組みです。また介護保険は一部給付が縮小され、市区町村が行う地域支援事業の重要度が増すなど、大きな見直しが行われます。
◎「地域包括ケアシステムの構築と費用負担の公平化」
新たに「医療介護総合確保推進法」を作成し医療・介護の複合的な改正を行ったのは、持続可能な社会保障制度の確立を図るとともに、「地域包括ケアシステム」を構築することで、2025 年の 3 人に 1 人が 65 歳以上、5 人に 1 人が 75 歳以上になる時代に対応するためです。
地域包括ケアシステムは、在宅およびサービスつき高齢者向け住宅等での介護を前提とする制度です。高齢者が住み慣れた地域で生活を継続できるようにするため、介護、医療、生活支援、介護予防を充実させようというものです。
更に今後増え続ける介護保険の支給額の財源を確保するために、第1号被保険者(通常 65 歳以上の介護保険給付対象者)の自負担割合を、高所得者に限って1割から2割に引き上げるというものです。
大きな変更点としては以下の 5 つの項目がその対象となります。
① 所得が一定以上の利用者の自己負担が 2 割になる
現在、介護保険の利用者負担は一律で 1 割負担となっています。例えば 30万円分のサービスを受けたら 3 万円の自己負担(介護保険適用外の自己負担を除く)するというものです。この利用者負担が、2015 年 8 月から、年金収入 280 万円以上の人は自己負担が 2 割になります。
② 高額介護サービス費の上限が引き上げに
介護サービスは要介護度ごとに、1 カ月の 1 割負担で利用できる上限額が決まっています。例えば、要介護 5 なら約 36 万円です。自己負担割合は 1 割のため、月に約 3 万 6,000 円(介護保険適用外の自己負担を除く)です。
ただし、年金収入が少なかったり、夫婦で介護サービスを利用していたりすると、「高額介護サービス費」の活用が可能です。公的医療保険における「高額療養費制度」同様、所得に応じて 1 カ月の自己負担限度額が決まっていて、それを超えると払い戻される仕組みになっています。
しかし、今回の改正案では、この自己負担限度額が引き上げられる予定です。一般の課税世帯の限度額は月 3 万 7,200 円ですが、2015 年 8 月から新たに所 得区分が 1 つ増え、所得の高い人には 44,400 円のカテゴリーが設けられる予定です。
③ 低所得者は保険料の軽減拡大
65 歳以上の高齢者が支払う介護保険料は市町村によって基準額が異なりますが、全国平均で月額 4,972 円(平成 24 年~26 年)です。所得が低い人は段階的に保険料が軽減される仕組みになっています。この軽減率が 2015 年 4 月から拡大されます。軽減の対象になる人は、世帯全員の市町村民税が非課税か、本人が非課税であることが前提です。対象となれば保険料負担が軽くなります。
④「要支援」サポートが市町村へ
現在は「要支援 1・2」の下に「要介護 1~5」があり、この要介護認定を受けた人が、所定の介護サービスを受けることができます。
要支援は身体介護の必要はほとんどなく、買い物や調理、洗濯、掃除といった生活面の一部に支援が必要な状態です。この「要支援」を対象とする予防給付のうち、訪問介護と通所介護について、2015 年 4 月より 3 年かけて「医療介護総合確保推進法」を基に、「市区町村が取り組む地域支援事業」に移されることになりました。
地域包括ケアシステムを支える互助の説明として、最も適切なものを1つ選びなさい。
- 所得保障を中心としたナショナルミニマム(national minimum)の確保
- 地域福祉向上のための住民の支え合い
- 市場サービスの購入
- 介護保険制度における介護サービスの利用
- 「高齢者虐待防止法」に基づく虐待への対応
【 正答:2 】
解説
「自助・互助・共助・公助」からみた地域包括ケアシステム
【費用負担による区分】
「公助」は税による公の負担、「共助」は介護保険などリスクを共有する仲間(被保険者)の負担であり、「自助」に は「自分のことを自分でする」ことに加え、市場サービスの購入も含まれる。 これに対し、「互助」は相互に支え合っているという意味で「共助」と共通点があるが、費用負担が制度的に裏付けられていない自発的なもの。
- × 所得保障を中心としたナショナルミニマムの確保は、税による公の負担で生活保障を行う公助である。
- 〇 適切である。
- × 市場サービスの購入は、自助である。
- × 介護保険制度における介護サービスの利用は、共助である。
- × 「高齢者虐待防止法」に基づく虐待への対応は、公助である。
#介護施設#利用者#国家試験#地域包括ケア
文:結城康博(淑徳大学教授 介護福祉士 社会福祉士)
「地域包括ケアシステム」というキーワードを聞いたことがあるでしょうか?現在、高齢者介護施策は、「地域包括ケアシステム」という考え方が基になって展開されています。このキーワードを理解するうえで、自助・互助・共助・公助といった支援の枠組みも認識しておく必要があります。
「地域包括ケアシステム」という概念は、1970年代に、広島県の御調町(現在は尾道市)で展開された医療と福祉サービスを連携する実践形態が原形と言われています。ただ、類似した言葉「包括的地域ケア・システム」などのように、「福祉」「保健」「医療」の連携が強化されるべきとの意見もあり、介護保険制度創設以前から論じられてきています。
昨今、政府においては負担と給付の問題が最大の課題となり、「年金」「医療」「介護」といった給付費の伸び率を予測し、財政的な側面も絡めながら「地域包括ケアシステム」の構築が論じられています。
「自助」「互助」「共助」「公助」の考えかた
高齢になっても自立した生活を継続し、住み慣れた地域で暮らしていくためには、「自助=自分」、「互助=家族・地域」、「共助=社会保険(介護保険など)」、「公助=福祉」といった、支援体制が重要となります。介護保険制度に依存したサービス体系に偏らず、「自助」「互助」の組み合わせが重要視されています。
特に、団塊世代が退職を迎え、これらの人達が支え手となる「互助」による支援体制に期待が寄せられています。しかし、現在の地域社会の希薄化によって、地域力の構築にはかなり課題があるとも言わざるをえないでしょう。 いずれにしろ2025年には団塊の世代層が75歳を迎えることから、この世代層がサービスを利用する際には「新しい高齢者」として位置付けられ、多様化するニーズに対応する支援体制として「地域包括ケアシステム」が想定されています。
主に5つの要素から成り立つ
「地域包括ケアシステム」は、大きく5つの要素に分かれており、(1)住まい、(2)医療、(3)介護、(4)生活支援、(5)介護予防となっています(厚労省ホームページより引用。)。
これら5つのキーワードを、筆者なりに解釈すれば、「(1)住まい」の確保が基本と考えられます。要介護高齢者が在宅で最期まで暮らしていくには、安心した「住まい」がなければなりません。例えば、サービス付高齢者住宅の整備促進は1つの方策でしょう。
また、要介護高齢者が在宅で住み続けるには「医療」や「介護」サービスが地域で充実していなければなりません。特に、独居高齢者が増える中で、24時間型の介護や看護サービスは重要な社会資源となります。具体的には「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」が1つのサービスメニューでしょう。
なお、「電球を取り換える」「トイレ掃除」「ゴミ出し」といった、現役世代にとっては何ら支障のない生活行動も、心身共に機能が低下している要介護高齢者にとっては、非常に困難をきたします。その意味で、地域住民の助け合い(ボランティア組織の構築)や簡単な「生活支援サービス」が整備されることで、多くの高齢者が在宅で生活しやすくなります。
しかも、高齢者自らがボランティア活動をすることで「介護予防」につながります。65歳~74歳の元気な高齢者が、75歳以上の要介護高齢者を支援するといった世代内の助け合いシステムを構築することで、相乗効果が期待できるというわけです。
地域包括ケアシステムの植木鉢モデル図
出典:平成28年3月 地域包括ケア研究会報告書
厚生労働省ホームページより)
介護福祉士国家試験 過去問題
第32回 午前 問題5
地域包括ケアシステムでの自助・互助・共助・公助に関する次の記述のうち、最も適切なものを1 つ選びなさい。
1 自助は、公的扶助を利用して、自ら生活を維持することをいう。
2 互助は、社会保険のように制度化された相互扶助をいう。
3
共助は、社会保障制度に含まれない。
4 共助は、近隣住民同士の支え合いをいう。
5 公助は、自助・互助・共助では対応できない生活困窮等に対応する。
解答と解説
正答:5
選択肢1「自助は、公的扶助を利用して、自ら生活を維持することをいう。」×
「自助」は、まず困ったら利用者自身が自分で解決する考え方です。いっぽう公的扶助は、生活保護制度を意味するもので、税金を用いた「公助」の枠組みとなる支援システムです。
選択肢2「互助は、社会保険のように制度化された相互扶助をいう。」×
「互助」は地域組織の助け合い、近所づきあいの見守り支援策や、一部、地域住民のボランティア等が該当します。いっぽう社会保険は、「共助」の枠組みであてはまり既述は間違いです。
選択肢3「共助は、社会保障制度に含まれない。」×
「共助」は主に社会保険があてはまり、当該住民が社会保険料を支払い、困窮者が生じたらサービスを利用できる仕組みです。そのため、普段から保険料を支払っていない者は、たとえ困窮してもサービスが利用できない社会保障制度の骨格となる社会保険が「共助」です。
選択肢4「共助は、近隣住民同士の支え合いをいう。」×
近隣住民同士の支え合いは、「共助」ではなく「互助」です。「共」と「互」では意味合いが違いますので、しっかり認識しておく必要があります。
選択肢5「公助は、自助・互助・共助では対応できない生活困窮等に対応する。」〇
生活困窮者当は、「公助」です。社会保険(共助)は、普段から保険料を支払っていないとサービスが受けられません。しかし、「公助」は税金で賄われているため、そのときに困窮状態が認められればサービスが受けられます。
「自助」「互助」の理念が重視
このように「地域包括ケアシステム」という施策には、公的サービスに併せて「自助」「互助」といった理念が重視されています。できるだけ高齢者自身が心身に気を遣いながら「介護予防」をこころがけ、運動や食生活のバランスをとるよう努めていくことが目指されています。
また、自分ができることは自分で行い、一定の経済的余力があれば公的サービスに頼らず自費でサービスを使うことも、「自助」努力にあてはまるのでないでしょうか。
いわば地域の助け合い組織を強化して、公的サービスに頼らずボランティア組織が活性化されることで、在宅介護のサポートも促進されるのではないかと考えられているのです。実際、各地で自治会役員やNPO法人などの団体が助け合い組織を強化して、「互助」組織の活性化の先進事例として紹介されることも少なくありません。
課題も浮き彫りに
しかし、「自助」や「互助」といった理念に基づくサービス形態、もしくは高齢者の意識変容を、在宅介護施策の中心に据えていくには多くの課題があります。もちろん、「自助」や「互助」に基づく施策は重要でありますが、かなりの個人差や地域格差が生じてしまうのが現状です。
あくまでも「自助」や「互助」に基づく施策は、公的サービスの「補完」であって「代替」にはなりえないという考えもあります。公的サービスがしっかりと整備されてこそ、「自助」「互助」といった形態が活性化されてくるかもしれません。
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